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宇都宮地方裁判所 昭和48年(ワ)291号 判決 1979年2月28日

原告 国

代理人 高塚育昌 大掛正二 ほか二名

被告 斎藤寛子 ほか一五名

主文

原告に対し、昭和一九年一〇月売買を原因として

被告斎藤寛子、同佐藤幹雄、同佐藤良子、同佐藤次雄、同猪瀬明子、同佐藤敏雄は別紙目録記載一の各土地につき別表記載1ないし6のとおりの各持分の、被告山田シゲ、同飯野道善、同小貫行、同飯野數一、同枝野和夫、同飯野富子、同豊田泰、同豊田伸子、同豊田啓子、同豊田浩道、同豊田剛は同目録記載二の土地につき同表記載7ないし17のとおりの各持分の、被告野沢忠市は同目録記載三の土地につき所有権の各移転登記手続をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告飯野數一、同枝野和夫、同飯野富子、及びその余の被告ら訴訟代理人(以下被告斎藤寛子外一四名訴訟代理人という)は

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求めた。

原告訴訟代理人は請求の原因を次のとおり述べた。

一  原告は昭和一九年一〇月頃、訴外亡佐藤キヌから別紙目録記載一の各土地(以下本件一の各土地という)を、同亡飯野茂平から同目録記載二の土地(以下本件二の土地という)を、同亡野沢貞三郎から同目録記載三の土地(以下本件三の土地という)を、旧陸軍航空本部において、中島航空機整備伝習教育居住施設用敷地に使用するため、それぞれ買受けてその所有権を取得した。

二(一)  訴外佐藤キヌは昭和四〇年三月二九日死亡したので、被告斎藤寛子、同佐藤幹雄、同佐藤良子、同佐藤次雄、同猪瀬明子、同佐藤敏雄が相続人として同訴外人の権利義務を、訴外飯野茂平は昭和二六年一月一一日死亡したので、被告山田シゲ、同飯野道善、同小貫行、同飯野數一(同訴外人の子である亡飯野チカ(昭和四九年一月一〇日死亡)の養子)、被告枝野和夫、同飯野富子(いずれも亡飯野チカの養女である亡枝野ハナ(昭和二〇年七月一二日死亡)の子)、同豊田泰(訴外亡飯野茂平の子である訴外亡豊田初(昭和四年八月一七日死亡)の子)、被告豊田伸子(訴外亡豊田初の子である同亡豊田栄(昭和三九年三月一二日死亡)の妻)、被告豊田啓子、同豊田浩道、同豊田剛(いずれも訴外亡豊田栄の子)が、相続人ないし代襲相続人として訴外亡飯野茂平の権利義務を、訴外野沢貞三郎は昭和三四年三月二八日死亡したので、被告野沢忠市が相続人として同訴外人の権利義務を、それぞれ承継取得した。

(二)  別紙目録記載一の各土地(以下本件一の各土地という)につき、訴外亡佐藤キヌの相続人らに対し相続を原因として別表記載1ないし6のとおりの各持分移転の、同目録記載二の土地(以下本件二の土地という)につき、訴外亡飯野茂平の相続人ないし代襲相続人に対し、相続を原因として同表記載の7ないし9、13ないし17のとおりの各持分移転の、亡飯野チカに対し一〇分の二の持分移転の、同目録記載三の土地(以下本件三の土地という)につき、相続を原因として被告野沢忠市に対し所有権移転の各登記がなされている。

三  よつて原告は前記売買を原因として被告斎藤寛子、同佐藤幹雄、同佐藤良子、同佐藤次雄、同猪瀬明子、同佐藤敏雄に対し、本件一の各土地につき右各持分移転の、被告野沢忠市は本件三の土地につき所有権移転の、その余の被告らは本件二の土地につき右各持分移転の各登記手続を求める。

被告飯野數一、同枝野和夫、同飯野富子、及び被告斎藤寛子外一四名訴訟代理人の抗弁に対し

否認する。

仮に占有していたとしても、所有の意思に基づく占有即ち自主占有と認められない。

被告飯野數一、同枝野和夫、同飯野富子、及び被告斎藤寛子外一四名訴訟代理人は請求の原因に対する答弁として

一  請求原因一項の事実は否認する。

なお、本件ないし三の各土地代金は結局支払がなされていない。

二  同二項の事実は、被告飯野數一、同枝野和夫、同飯野富子においてその相続及び持分関係を除き、認める。

三  同三項は争う。

と述べ、抗弁を次のとおり述べた。

仮にそうでないとしても、訴外亡佐藤キヌは本件一の各土地につき昭和二〇年九月頃より所有の意思をもつて占有を始め、訴外木下仁五人ら一八名に対してこれを使用せしめて間接占有し、右占有の始め本件一の各土地の所有者であると信じ、かつ信じるにつき過失がなかつたものであるから、その後一〇年経過した時点において時効によりその所有権を取得した。

仮にそうでないとしても、昭和二〇年九月頃より訴外亡佐藤キヌは本件一の各土地を、同亡飯野茂平は本件二の土地を、同亡野沢貞三郎は本件三の土地を、それぞれ所有の意思をもつて占有を始め、同訴外人らの死亡後、その相続人らが引き続き占有を継続していたものであるから、二〇年を経過した時点において、時効によりその所有権を取得した。

立証として、<証拠略>と述べた。

理由

一  <証拠略>によれば、旧陸軍航空本部は昭和一九年頃、戦局が緊迫して航空機の整備要員の養成に迫られ、旧中島航空機整備、伝習教育居住施設用敷地として、その頃本件各土地を買収の対象地とし、栃木県旧河内郡横川村役場を通じてその旨事情説明をしたうえ、当時の所有者ら関係人全員の了承を取り付けて、本件(一)の各土地につき訴外亡佐藤キヌから、本件(二)の土地につき同亡飯野茂平から、本件(三)の土地につき同亡野沢貞三郎から、その買受代金額を地目山林及び畑につき反当り金七一〇円、宅地につき坪当り金三円の割合で算出した金額と定めて買収し、かつ該土地代金の外これに生立する立木代金の支払をもなして所有権を取得、直ちに右伝習用居住施設を設営して、習二〇年八月頃までその用途に供していたものであることが認められ、右認定に反する<証拠略>は、前顕証拠に対比して措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  請求原因二項の事実は、被告飯野數一、同枝野和夫、同飯野富子を除くその余の被告らと原告との間において争いなく、被告飯野數一、同枝野和夫、同飯野富子と原告との間において、同被告らの相続及び持分関係を除き、その余の部分につき争いがない。

右被告飯野数一外二名は、その相続及び持分関係につき、明らかに争わないから民事訴訟法一四〇条により自白したものと看做す。

三  前顕証拠の外<証拠略>によれば、右伝習用居住施設には、終戦後昭和二〇年秋頃から引揚者など住宅困窮者が、旧横川村役場の斡旋により居住するようになり、これに伴いこれら居住者が本件各土地の大部分を、事実上分割して耕作するなど利用をなし、さらに本件(二)、(三)の各土地につき、訴外飯野茂平、同野沢貞三郎死亡後、それぞれその相続人である被告飯野道善、同野沢忠市らにおいて、これらを宅地造成して他に賃貸するなどして使用していたが、原告は昭和四三年一二月に至り本件各土地につき、訴外亡佐藤キヌ、同亡飯野茂平、同亡野沢貞三郎の各相続人を相手方として所有権を主張しその処分禁止の仮処分の申請をなし、同月一八日宇都宮地方裁判所がその旨の決定をなし、これを原因として翌一九日該仮処分の仮登記がなされていることが認められる。

ところで、訴外佐藤キヌは昭和四〇年三月二九日、同飯野茂平は同二六年一月一一日、同野沢貞三郎は同三四年三月二八日各死亡したこと前記認定のとおりであり、同訴外人らが原告から本件土地を買収された後右死亡するに至るまで、及び同訴外人らの各相続人が、その後原告の本件各土地に対する右処分禁止の仮処分に至るまで、本件各土地が自己の所有に属するものであることを原告に明示し、または所有権取得原因となり得べき法律行為(例えば原告から売買、贈与など)がなされたものと認めるべき証拠なく、従つて右訴外人ら及びその相続人である被告らは、仮にそれぞれの主張する本件各土地を占有していたとしても、所有の意思に基づく占有、即ち自主占有をなしていたものと見ることができない。

なお、訴外亡飯野茂平、及び同亡野沢貞三郎の各相続人が、それぞれその主張する本件(二)、(三)の各土地を、前記認定のとおり昭和三七年頃から宅地造成をなし、他に賃貸するなどして占有使用しているとしても、右各土地を売渡した右各訴外人の相続人であり、かつ相続に起因する占有の開始であることなどから、他に特段の事情がない限り右事実をもつて直ちに、所有の意思に基づく占有即ち自主占有をなすに至つたものと解することはできない。

よつて被告らの本件各土地に対する所有権の時効取得の主張は、その余の点の判断をするまでもなく理由なく失当であるといわねばならない。

四  以上のとおりであるから、原告の請求は正当というべくこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相良甲子彦)

別紙目録、別表 <略>

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